あぶのま!【SS】


恍惚を瞳に浮かべて、彼女は溜め息を吐いた。

画面からは、視覚と記憶と三半規管に多大なダメージを与えそうな赤。
スピーカーからは悲鳴、息切れ、そして、ざしゅっ、刃物が肉を切り裂く鈍い音。

映画というのはどうしてこう、音声にリアリティを求めないのだろうか(特に洋画の場合、その傾向は顕著な気がする。まぁ、比べられるほど詳しくはないけど)。
例えば紙、例えばカッター、例えば包丁で指を切ってしまった時、微かでもあんな感じの音が聞こえたことは未だかつて一度も無い。

少なくとも、俺は。



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