あぶのま!【SS】
まぁ製作者側の、何とか画面から観客の目を離させるまいという必死さは伝わってくるわけで、というかそんなことはどうでもよくて、とりあえず俺は今、彼女のうっとりとした視線の先にあるものを、直視できずにいた。
直視できないのにそれも悔しくて、しかしアレに嫉妬したことを自覚した時点でなんとなく俺は人間をやっていていいのかすら疑問で、つまるところ、彼女がもう4回は観たというこの映画に、ほとんど集中していなかった。
そしてこういった類のもの──つまり、スプラッタだとかホラーだとかオカルトだとか、いわゆるグロ系──が、あまり好きではないどころかむしろかなり苦手な俺は、どことなく落ち着かない気持ちを、彼女にぶつけてみることにした。
「ねぇカヨ、」
「……なぁに」
振り向くどころか一瞥すらくれないカヨは、俺の部屋にわざわざ押し掛けて映画を観ているが、別に俺と特別な関係にあるとかそうなるために来ているとかではなく、ただの女友達だ。
ここにいる理由なんか、彼女の知り合いの中では俺の家のテレビが一番大きいからに他ならない、要するに俺よりテレビを基準に選んで来たわけだ、酷いやつ。