僕じゃない
それと同時に、ホーム中は甲高い悲鳴でいっぱいになり、僕は電車から飛び出てきた数人に押されその場に倒れてしまった。

僕の足元には僕が轢かれた時の血だろうか、小さな血痕がいくつも散らばっている。
僕はそれを見た後、鼻にようやく届いた独特の鉄臭さで酷く気分が悪くなり嘔吐しそうになり、そしてその場に座り込んでしまった。

しばらく蹲っていると、カツンと僕の前で音が鳴った。
前で組んだ腕の間から見ると、目の前に高いヒールを履いた女性が現れ声をかけてきた。

「大丈夫ですか？」

彼女は手を差し出したようだった。
僕はその手を取ろうとしたがハッとし、すぐに引っ込めた。

僕の右手の平に真っ赤なものがべったりと付着していたからだ。

僕は混乱したまま、取り合えず「大丈夫です。」と立ち上がり彼女の手を払うと一度もその顔を見ないで地上へ向かって走り出した。

彼女がこっちをずっと見ている気がして、怖くて一度も振り返れることができなかった。
< 2 / 9 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop