マカロンの音色[side:she]
「ありがと!」
そう言って、彼は笑顔のままそれじゃ、と帰って行った。
私は悩んでたり落ち込んだりしてても、誰かに気付かれたことはなかった。
さっきだって暗い顔してるつもりはこれっぽっちもなかったのに。
初めてだった。
我ながら単純だ、たったこれだけのことで。
今まで嫌いだったタイプから一気に苦手意識は消え、彼のあの照れた笑顔が目に焼き付いて離れない。
私は、名も知らない彼に恋をした。
* * *
それから少しして友達に彼の事を教えてもらい、名前もわかった。
あのマカロンがおそらく手作りだと知った時は驚いたなぁ…。
「俺の顔何かついてる?」
「え? あっ、ごめん!」
いけない、つい見入ってしまっていた。
慌てて目をそらしたが、同時に誰かに呼ばれた彼は、教室の後ろの出入り口辺りに行ってしまった。
…はぁ。
何やってんだろ、私。
せっかく同じクラスになれたのに。
高野と同じクラスにはなれたけど、仲の良かった友達とは離れてしまった。
今の私は不安でいっぱいだった。
自分1人では何も出来ない。
私は弱い。
それを嫌というほど理解している。
だからこそ密かに思っているだけにしてるのだ。
* * *