マカロンの音色[side:she]
音楽室の香り
次の日も、その次の日も、いつもと何ら変わらない日常が続いた。
私は来る日も来る日もピアノを弾いていた。
学校では休み時間に音楽室を借り、家では暇さえあればピアノに向かっていた。
最近ちょっと弾きすぎかなってくらい。
でもこれくらい練習しないと不安で仕方ないんだ。
今月末のピアノコンクールで失敗したくないから。
ピアノは大好きだけど、昔からコンクールは苦手だった。
人に見てもらわないことには、実力が認められないのはわかっている。
でもやっぱり、あのしんとした注目されてる感じは苦手だ。
それでも、出なければ夢には進めない。
私が前を向けるのはピアノの中だけだ。
だからこそ、ピアニストになりたいと思った時、ピアノでだけは前向きに努力しようと誓った。
私は、ピアノでしか進めない。
今日も職員室から借りて来た鍵と課題曲の譜面を手に、音楽室へ向かっていた。
歩きながら心の中でメロディーを口遊む。
2年の教室よりも1つ上の4階にある音楽室に入ると、私はすぐにグランドピアノのカバーを開けた。
「やっぱりいいなぁ…」
この堂々とした存在感。
透き通った淀みのない音。
滑らかな弾き心地。
コンクール本番でグランドピアノを弾けると思うと胸が躍る。
コンクールは苦手だけど、それだけは楽しみだった。
さて、気持ちを切り替えて。
椅子に座り、手を載せて、目を閉じる。
そしてゆっくりと目を開けた。
私は今、ピアノの世界の中にいる。
この曲の世界に。
そう心で唱えてから、勢いよく弾き始めた。