マカロンの音色[side:she]
音楽室の香り

次の日も、その次の日も、いつもと何ら変わらない日常が続いた。


私は来る日も来る日もピアノを弾いていた。



学校では休み時間に音楽室を借り、家では暇さえあればピアノに向かっていた。

最近ちょっと弾きすぎかなってくらい。



でもこれくらい練習しないと不安で仕方ないんだ。

今月末のピアノコンクールで失敗したくないから。



ピアノは大好きだけど、昔からコンクールは苦手だった。



人に見てもらわないことには、実力が認められないのはわかっている。

でもやっぱり、あのしんとした注目されてる感じは苦手だ。

それでも、出なければ夢には進めない。



私が前を向けるのはピアノの中だけだ。

だからこそ、ピアニストになりたいと思った時、ピアノでだけは前向きに努力しようと誓った。

私は、ピアノでしか進めない。



今日も職員室から借りて来た鍵と課題曲の譜面を手に、音楽室へ向かっていた。

歩きながら心の中でメロディーを口遊む。



2年の教室よりも1つ上の4階にある音楽室に入ると、私はすぐにグランドピアノのカバーを開けた。

「やっぱりいいなぁ…」

この堂々とした存在感。
透き通った淀みのない音。
滑らかな弾き心地。



コンクール本番でグランドピアノを弾けると思うと胸が躍る。

コンクールは苦手だけど、それだけは楽しみだった。



さて、気持ちを切り替えて。



椅子に座り、手を載せて、目を閉じる。

そしてゆっくりと目を開けた。



私は今、ピアノの世界の中にいる。

この曲の世界に。



そう心で唱えてから、勢いよく弾き始めた。


< 6 / 9 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop