マカロンの音色[side:she]

* * *



「あぁー、だめだ…」

私ははピアノに手を置いてうなだれた。
同時にダーンと大きな不協和音が出る。



旋律が指に乗らない。

家に帰ってきても、今日の昼休みの事が忘れられないんだ。

「高野に悪い事したよね、絶対…」


はぁ…、と怠いため息が出た。



どうしたら緊張ってしなくなるんだろう。

それさえなければ、もっと上手くいくのに。



私はパンッと両頬を自分で叩いた。

気持ちを切り替えなければ。



いつものように、目を閉じて。


ゆっくり開ける。

曲の世界へ入るんだ。



* * *



私は次の日の休み時間も音楽室にいた。

けど高野は来なかった。



そりゃそうだよね。
普段あまり来ない階だし。

…多分来たとしても、また緊張で話せなかったと思う。



私は曲に入り込むのが得意だ。

1度その世界に入り込めば、弾ききるまで集中を保つ自信はある。



でも、誰かが見てる状態、誰かに見られてる状態では、曲に入り込むどころか、集中すらままならない。

それでも、ピアノを弾くことはできる。

できるにはできるんだけど…。



納得の行く演奏は出来ない。

コンクールでもそうだった。

回数を重ねれば重ねるほど、コンプレックスになる。


わかってるんだ、このままじゃいけないことは。



頭ではわかってた。

でも心は理解してなかったんだ、きっと。

その日、家でお母さんにあんなこと言われるまでは。



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