マカロンの音色[side:she]
「このコンクールで結果が出なかったら、ピアノは諦めなさい」
一瞬何を言われているのか解らなかった。
ピアノを諦める…?
やめるってこと?
私の唯一の夢と生きがいを、捨てろってことなの?
なに…、それ……。
「今まで3歳から14年間やらせて来たけど、なかなか結果出せないじゃない。実力はあるのに…」
「でも…なんでいきなり…」
頭が回らない。
それほどに、私にとってピアノは大切で大きな存在だった。
「もう高校2年に入ったし、進路はそろそろ考えなきゃダメでしょ?
もしピアノの道に進まないなら早くから用意しないと」
「……っ」
「先生は実力を出せば賞は間違いないって言われてたわよ?」
「もちろん、お母さんだってあなたがピアノを好きなのは知ってるし、応援したいけど…」
実にならないことはやめろ、ってことでしょ。
知ってる、お母さんは合理主義だ。
無駄なことは一切しない。
逆を言えば、今まで結果なしで続けさせてくれたのがピアノだけだった。
だからピアノはずっとやっていけると安心してた。
どうしよう…。
ピアノを続けられないかもしれない……。
考えたこともない可能性に足が震えた。
その日は練習中も、どうしたらコンクールで結果が残せるのか、どうすれば緊張せずにすむのかで、頭の中はいっぱいだった。
* * *