あなたの隣は…(短編集)
「…仕事とか、命とかじゃないんです。ただ、私は、歌いたいんです。少しでも、ファンの方達に、よりたくさんの人達に私の歌を聴いてほしい。」
「わかっているんですか?あなたの喉は、もうもちません。あなたは今、声か命、どちらかを捨てなければならない。」
「え?」
声を捨てる…?
私の心臓が震える。
胃が締め付けられているような感覚がする。
「やはり…説明を聞いていなかったのですね。もう1度言います。よく聞いていてください…」
私は今度こそ理解しようと、一言も聞き漏らさないように食いつくように、医者を見つめて耳をそばだてた。
医者は大きく息を吸い込み、説明を始めた。
私の喉から腫瘍を取るには、声帯ごと取らなければならなくて、そうするともう声が出せなくなる。
でも腫瘍を取らないと、癌が転移して取り返しのつかない事になるかもしれなくて、そうすると助かる見込みは無い。
私は必死に頭で理解しようとしたが、もう最後の方には……
涙で視界が歪む。
もう、何も考えられなかった。