あなたの隣は…(短編集)
家に着いた瞬間、10年ぶりぐらいの涙が出た。
泣き方も忘れたと思ってたのに、こんなに簡単に出てくるなんて……
はぁ…
何だ、呆気ないな。
あたしの恋って、誰にも知られないまま、終わっていくんだ…
そう思うと、涙が止まらなくなった。
玄関から急いで部屋に入り、ティッシュの箱を掴んでベッドに倒れた。
ティッシュで鼻と目を押さえたけど、溢れ出てくる物は止まらなかった。
明日、腫れるだろうな。とか、どうでもいい事思ってたのに、自然と涙は流れ出た。
コンコンッ
「お姉ちゃん?梓(アズサ)だけど、入るよ?」
ノックと同時に声が聞こえて、小学生の妹、梓が入って来た。
ドアを静かに閉め、ベッドの許に駆けてきた。
「お姉ちゃん、やっぱり、泣いてるの?」
心配そうな声を出す梓に首を振り、「なんでもない」と言う。
なんでもないのに、涙が出るのは、どうしてだろなって小学生相手に訊いてみる。
「…もう1人の自分が、泣きたいから、涙が出るんだよ。」
「え?」
「素直になれない自分の代わりに、もう1人の本当の自分が泣くんだよ。本当に思ってる事を誰かに伝える為に、涙が出るんだって、お母さんが教えてくれた。」
……母さん、あたしにも、そんな良い教育しといてくれよ。