あなたの隣は…(短編集)
その後、私は事務所に向かい、社長とマネージャーに直接話した。


「あと1ヶ月、必死こいて練習しろ。本気で歌って本気で踊れ。そんで、悔い残すな。手術した後、戻って来い。その時は『色秦日向』として、作詞・作曲家として働いてもらうからな。」

社長の如月奈都子(キサラギ ナツコ)さんは、微笑んで私の頬を撫でながらそう言った。
マネージャーも泣きながら頷いている。


社長の優しさに、涙が込み上げて来た。
マネージャーは、私を抱き締めて「頑張ろうね」と言ってくれた。

暫く、マネージャーと抱き合いながら泣いた。


すぐに私の引退を発表した。

私の体調が悪くなり、仕事を続ける事が出来なくなった、という風に発表した。
それ以来、絶えること無く大量のファンレターが送られて来た。
それを見ると、本当にたくさんの人達が応援してくれていたんだと、また涙が込み上げてきた。



そして、私はコンサートの最後の最後まで、全部本気で歌って踊って、笑った。

コンサートの最後には、もう涙が止まらなくなっていた。濃いメイクも落ちてぐちゃぐちゃだ…


「今まで、本当にありがとうございましたっ!!また…またいつか、会える日まで!!バイバイ!!!!」

そう叫ぶように言い、大きく両手を振った。


私の歌手活動は、これで終わりなんだと思うと、この時間が止まってしまえばいいのにと強く願った。
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