あなたの隣は…(短編集)


「俺が恵ちゃんにラブ!って言った日、覚えてる?」

私は黙って頷いた。
話を聞いていると、騙されたことなんて忘れてしまった。


先輩が私に告白したのは、放課後の美術室で夢の景色を鉛筆で描き終わった時。

「俺、あの絵の場所、知ってたんだ。恵ちゃんは夢だって言ってたんだけど…俺の家の近くにちょっとした丘があって、そこから見下ろした、雪に包まれた町の景色。」

パッと脳内にその景色が広がった…

引越してきたばかりで、どこに何があるのか覚える為に、町の至るところを歩いて風景を描いて回った。
町の風景を描き続け、スケッチブックが残り1枚となったとき、ある小高い丘に辿り着いた。


そこから見下ろした町は真っ白に染まっていて、誰もいないみたいだった。
でも確かに人や動物や植物があって、温度をもっている。

私は最後の1枚はここにしようと決め、石の上にあった雪を落としてそこに座り、鉛筆を握った。

あぁ、あの絵は夢じゃなかった…。
記憶にあった、あの景色だったんだ…。


「俺、あの時の絵を見て、恵ちゃんが初恋の女の子だってわかった。あの時と同じ暖かさを感じたから。」

先輩は、手を握ったり開いたりして、それを真剣な目で見ていた。


「俺、このチャンスを逃しちゃダメだと思った。だからすぐに呼び出して、断られないように告白した。強引だったよね、ごめんなさい。」

頭を下げる先輩に、私は慌てて首を振った。

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