あなたの隣は…(短編集)
「今日の放課後、絵を描いてる恵ちゃんの姿がグラウンドから見えて…練習早めに切り上げて恵ちゃんのところに行ったんだ。邪魔しないように黙って恵ちゃんの後ろの椅子に座って、恵ちゃんの絵を見てた。色が付いたその絵は、確かに俺が知っているあそこの風景で…」
先輩は、目を伏せた。
先輩の手は私の肩に乗っている。
この距離に、緊張しているみたいに体が固くなり、走った後みたいに心臓が早く動く。
バレないようにと頑張っていると、先輩に見られているのに気づいてなかった。
「…だから、恵ちゃんもやっぱり知ってるのかなって思って聞いたら、夢だって言われたから…正直ちょっと残念だった…」
「……夢だって、思い込んでたのかも。今は、はっきりと思い出せるんで…。」
「そっか…」
会話が途切れる。
でも、嫌じゃなかった。
同時に、先輩のことを悪く思ってた私がバカに思えて、先輩に申し訳なくなった。
「先輩…ごめんなさい。私、ずっと騙されてるって。遊ばれてるって思って、先輩に失礼なことしてました…すいません。」
先輩の手は、私の手に重ねられ軽く握られた。