僕はショパンに恋をした
「すまない、大丈夫かい?」

彼は慌てて俺に言った。

「あ、大丈夫です…。」

かなり痛かったが、そう言った。

「あの、お店の方ですか?」

「えぇ、そうですよ。」

俺は咄嗟に言った。

「大橋ピアノを見せてください!」

彼はきょとんとしたが、すぐににこやかに笑った。

歳の頃は、定年したかしないかくらいだろう。

鼻の上に、ちょこんと丸い眼鏡をかけて、頭にフィットした柔らかそうな帽子をかぶっていた。

「少し前に引き取った、大橋ピアノだね。」

「はい。」

彼は頷いた。

「あれはとても良いピアノだからね。君もその音色に魅かれた一人だね。」

嬉しそうに言った。

「見せてもらえませんか?」

再度頼むと、彼はうんうんと言い、ちょっと待っててと携帯を取り出した。

何やら話していたが、俺はそれどころじゃなかった。

早く、中を見せてくれ!

そればかりを考えていた。
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