僕はショパンに恋をした
「じゃあ、行こうか。」

彼は電話を切ると、俺たちに言った。

「…は…?」

俺はまた、とぼけた顔をしていたことだろう。

「行くって…、あの、俺は大橋ピアノを見せていただきたいのですが…。」

「うん。ここには置いてないんですわ。」

店の鍵を閉めて、彼は言った。

「あのピアノは、どうしても欲しいという方にお譲りしましてね。」

譲った!?

「その方の家に少し前に運んだんですけどね、今日は調律しに行く予定なんです。」

何かよくわからない状況に、なってないか?

ぐるぐるしていると、シオンが言った。

「お店、臨時休業なんですね。」

ははっと笑って、俺達に小さなビートルの車に乗るよう、勧めた。

「働いてるのは、私一人しかいないんでね。調律しに行く時は『臨時休業』なんですわ。」

彼が朝比奈さんというわけか。

変なところで妙に納得しながら車に乗り込むと、静かに走り出した。
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