僕はショパンに恋をした
「私は、八月 桐儀です。こっちはシオンと言います。」

二人で頭を下げる。

「あの、今日はいきなりですみません。」

あまりにも不躾な訪問だったと、自分でも思う。

大橋ピアノに、霧野さんの思いでに、会いたい気持ちが先走ってしまった。

子供みたいだ。

少し赤くなって、藤堂さんに謝った。

「気にしないでちょうだい。良いものは皆さんで分かち合うものだもの。大歓迎よ。それより、早く弾きたいでしょ?こちらよ。」

彼女は、家のなかに招き入れてくれた。

今、『見たいでしょ』ではなく、『弾きたいでしょ』と言った。

彼女には分っているのだ。

俺が弾きたがっているのが。
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