僕はショパンに恋をした
玄関からまっすぐのびた廊下。

一番奥の左の扉を、彼女はあけた。

「ここよ。」

そっと覗いて見る。

(間違いない!これだ…!)

体が震えた。

もう永遠にあえないかと思った時もあった。

やっと。

霧野さん。

やっと逢えたよ。

足が動かなかった。

こんなに自分が、思い入れを抱いてるなんて…。

その時、俺の隣りを、風がすりぬけた。

はっとして見ると、シオンがピアノに向かって歩いていた。

そして、ピアノの前に立つと、優しく指先で、象牙の鍵盤を撫ぜた。

「ようやく逢えたね。」

俺に言ったのか、ピアノに言ったのか、分からなかったが、その声は少し震えているように聞こえた。

俺は、その声に引かれるように、ピアノに近付いた。

シオンの隣りに立つと、俺も指先で鍵盤をなぞり、ぽーんと叩く。

一瞬にして『cafe ♪』の優しい時間が俺の上に降って来たような錯覚。

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