僕はショパンに恋をした
耳を疑った。

目を見張った。

突然部屋に、ピアノの旋律が流れたからだ。

俺も、藤堂さんも、朝比奈さんも、振り返る。

「…シオ…ン?」

その姿に目を奪われる。

弾いているのだ。

シオンが。

霧野さんの大橋ピアノを。

その姿は、窓から入る薄日に照らされて、教会の天使に見えた。

まるで鍵盤を撫ぜるみたいに、優雅に指が躍る。

(なんだ…!?こいつ、うまいどころじゃない!)

俺は騙された気分になる。

明らかに俺よりうまい。

(何が、『弾いて』だっ…!)

曲はショパンのスケルツォ 第2番 変ロ短調。

なんて美しく弾くんだろう。

あっという間に引き込まれる。

何で弾けるんだよとか、弾ける事何で黙ってたとか、色々いいたい事はあったけど、そんなのどうでも良いくらい、シオンは感動的だった。

(あ…れ…?なんだ…?)

俺は不思議なデジャヴを感じる。

(この感じ…。シオンのピアノ…って…。)

俺は気付いた。

「霧…野…さん…だ。」


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