僕はショパンに恋をした
どれくらいの時間がたっただろう。

先に口を開いたのは、シオンだった。

「僕ね、あんまり死ぬの怖くないんだ。」

少し笑って言う。

「ピアノだって、感情が高ぶらないように弾けば、まだまだ弾ける。」

それに…と言葉を続ける。

「二度と弾けなくなる方が、僕には恐い。」

シオンにはピアノがすべてなのだ。

命と同じなのだ、

それをもぎ取られるかもしれない恐怖感。

「だから、ピアノを弾き続けられる方を選びたくて、手術はしないと決めたんだ。」

「でも!手術が成功すれば、また弾けるんだろ!?」

シオンは初めて不安そうな顔をした。

「じゃあ、手術失敗したら?命は助かっても、後遺症で指が動かなくなったら?」

俺は何も言えなかった。

「僕は死ぬことより、弾けないことの方が嫌だ。だから今、確率の少ない手術よりも、静かに弾けるところまで生きる道を選んだ。」

シオンはまじめな顔で、俺に言った。

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