僕はショパンに恋をした
リサイタルまでの、ほぼ毎日、俺はシオンの泊まっているホテルのスイートルームに通った。

スイートルームには、グランドピアノが置いてあった。

シオンは毎日ピアノを弾いた。

その度に、俺はつい聴き入ってしまう。

リサイタルは本人の希望で、ショパン一色となった。

だから毎日の練習も、もちろんショパン。

リサイタルの曲だったり、別の曲だったり。

20年生きてきて、こんなにショパンばかり聴いたのは初めてだ。

気付けば、ショパンを口ずさんだりしている。

随分とのめり込んでしまったものだと、我ながら感心する。

シオンはといえば、となりの部屋に主治医が待機しているものの、発作はまだ一度もでていなかった。

シオンと俺は、リサイタルの打ち合わせなんかもした。

ホテルから出て、オープンカフェで打ち合わせと称して、遊びにでたりもした。

こんな風に、誰かと一緒に笑いながら出かけるのは初めてだった。

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