僕はショパンに恋をした
シオンはあの日、病室で言った。

オーケストラとやりたいと。

かなえてやりたかった。

何とかして。

だから、俺は生まれて初めて、両親に土下座して頼んだ。

無理難題を言っているのは、よく分かっている。

突然一か月後に一曲だけ、しかもこちらの提示するショパンの曲をひいてくれるオーケストラを、探してくれなんて。

母さんは呆れて頭をかかえた。

父さんも話しにならんと、最初はあっさり断られた。

それでも何度も頼んだ。

土下座した。

「お前がそんなに必死なのは、初めてだな。」

そう言ったのは、父さんだった。

「大切なものを、守りたいんだ。大切な約束を、どうしても守りたいんだ。」

俺は拳を握り締めて言った。

父さんは大きく溜め息をついた。

そして言った。

「希望の楽団じゃなくても、文句言うなよ。」

ありがとうと言いたかったけれど、大泣きしてしまったので言葉にならなかった。

大泣きした俺を見て、両親はとても驚いていたが、俺の本気が伝わったのか、優しく母さんは肩を叩いてくれた。

思えば、初めての親子のやりとりだったような気がする。

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