僕はショパンに恋をした
結局、父さんは超一流の楽団と話をつけてくれた。

中には俺も昔からの顔なじみもいた。

父さんに感謝だ。

コンマスも、父さんの親友だと言う。

そのコンマスが、チューニングを始めた。

ようやく、会場も、何が始まるか興味津津で息を飲む。

そしてスポットライトが、向って左側のピアノにあてられた。

そこにはシオンの凛とした姿がある。

会場中に響く拍手だった。

そして向って右側のピアノにもスポットライトがあたる。

そしてざわめきが広がって、叫び声まで聞こえた。

「きゃ―!うそ、八月 桐儀よ!」

「まさか、だって留学中よ?」

「それに、パンフレットにも書いてなかったぜ!」

軽いパニック状態の会場は、なかなか静かにならなかった。

どうしようかと考えていると、シオンが片手をあげた。

それは優雅な動きで。

まるで魔法がかかったかの様に、観客が静かになった。

まるで魔法使いだ。

強いて言えば、俺は魔法使いの弟子ってところか。

そんなことを考えて、くすっと笑った。

舞台上で笑うなんて、俺にとっては前代未聞なことだ。
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