僕はショパンに恋をした
観客はおそらく、かなりとまどっていたに違いない。

ちらりと観客に目をやると、ぽかんとした顔の人、目をきらきらさせた人、身を乗り出す人、目を細める人、色々だ。

そりゃそうだろう。ありえない演奏法だからな。

シオンの今の状態を知らない観客は、この演奏法を選んだ理由も、必要性も知らない。

(でも、おもしろいだろう?)

また俺はくすっと笑った。

舞台上で、笑ったのも初めてだったが、観客の様子をうかがったなんていうのも、それこそ初めてだった。

シオンといると、たくさんの初めてを味わえる。

やっぱり魔法使いだな。

シオンとの旋律のやりとりを何度か行い、オーケストラは素晴らしい演奏をかなで、曲は終盤を迎えた。

終わってしまうのが、もったいない。

気持ちが高ぶってしまう。

シオンは、最後は自分で終わらせたいと言った。

終わりに向けて演奏するシオンの旋律は、とても美しかった。
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