僕はショパンに恋をした
最終章

月輪

あれからの二年は、あっと言う間だった。

ひたすら弾き続けた。

もう前のように迷いはなかったからだ。

大学の要望にも応えつつ、俺は今まで避けていたリサイタルにも積極的行った。

始めの頃は、シオンとの演奏が話題になっていたこともあり、色々な詮索をされたものだった。

マスコミにも当然騒がれたが、そういうのに惑わされるほど、俺は暇ではなかった。

黙々と、自分の望むスタイルで弾き続けた。

浮ついた評判は二年もすればおさまる。

後に残ったのは、俺の音楽を愛してくれる多くの人々の、優しい気持ちと、「ショパンの貴公子」という、恥ずかしいキャッチフレーズだった。

そして今、大学を卒業し、活動の拠点を日本に移すため、東京に戻って来た。

「あちぃ〜。」

日本の夏は、暑いな。

そう思いながら、左に見える海を見ながら、江ノ電に揺られる。

電車の中で、こちらをチラチラ見る。

(二年前と、あんまかわんねぇなぁ…。)

ふっと笑う。

違うと言えば、あの頃のように、いらいらせず、にっこりと微笑むくらいの余裕ができたことくらいだろうか。

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