僕はショパンに恋をした
俺は、夏休み、毎日『cafe ♪』に通った。

定休日も通った。

迷惑な話だろうが、霧野さんは、いつも店を開けて待っていてくれた。

相変わらず、俺は弾かず、聴かせてもらうだけだが。

正直、恥ずかしくて、聴かせられない。

あんな心のないピアノなど…。

「ああ、ちょっと砂糖が切れたから、坂の下まで買ってくるよ。」

俺が買いに行くと提案したが、運動不足解消だからと、霧野さんは店を出た。

ちょっとした好奇心だった。

(誰もいないし…。)

この、OHHASHIと書かれたピアノを、触りたくなったのだ。

少し黄ばんだ象牙の鍵盤。

美しいとは言いがたいけれど、ノスタルジックな色。

触れてみて、指先が熱くなる。

(…弾きたい…!)

衝動的に刹那的に思った。

(少しだけ…、霧野さんが戻って来る前に…、ちょっとだけ…。)

俺は椅子に腰掛け、静かに弾きだした。
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