僕はショパンに恋をした
俺が思う方向とは、全く別の方へ、道がひかれていると気付いたのは、オーストリアに渡ってすぐのことだった。

音楽大学側の思惑は、俺のネームバリューだった。

大学主催のコンサートや、もろもろのイベントに駆り出された。

それこそ大学の授業など、あってないようなものだ。

そしてその駆り出された面々は、みな一様にネームバリューをもつ者ばかりだった。

はめられたな。

そう気付いた時、俺は心にチリッとしたものを感じた。

嫌な感じだった。

昔の自分を思い出しそうになって、ひどく慌てた。

もう後戻りしないと決めた。

止まる事はあっても、戻らないと決めた。

なのに、そのチリッとした痛みは、どんどん広がっていった。

自分が不本意な方に流れていると、思えば思うほど、チリチリする。

やばいな…。

危険信号…?

どんな?どんな危険信号だ?

自分でも分からない不安を抱えたまま、時間だけが進んでいった。
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