僕はショパンに恋をした
中には、誰もいなかった。

「誰もいないみたいだね。」

シオンはきょろきょろと部屋を見ながら言った。

「裏、見て来る。作業場っぽかったから。」

俺は。さっさと事務所を出て、裏へまわる。

そこには何人かの業者が、木材を運んだりしていた。

「すみません、ちょっと伺いたい事が…。」

俺は一番近くにいた、若い作業員に尋ねた。

「『cafe ♪』の解体は、こちらでされたときいたのですが。」

その人は、少し逡巡したあと、あぁ、と言って、奥の方で作業している人に声をかけた。

「おやっさん!霧野さんの店、はつったの、おやっさんだったろ〜?何か聞きたいらしいぞ〜!」

そう呼ばれて、こちらにきた『おやっさん』は、50歳そこそこの、無精髭のはえた、いかついひとだった。

「何か用か?」

端的に聞いて来る様が、何か格好良くさえ見える。

「あの、解体の時の事を教えて欲しくてきました。」

『おやっさん』は、俺とシオンを交互に見て、夏の太陽みたいに笑った。

「ま、茶でも、飲みな。」そう言って、事務所の中に誘った。
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