僕はショパンに恋をした
「あの店はよ、俺の親父がよく通ってた店でよ。」

帰り際、四ノ宮さんは俺に言った。

「霧野のじいさんの紅茶は美味いって。」

「…俺も。俺も好きでした。霧野さんの紅茶。」

そして身寄りのない霧野さんのお墓を、四ノ宮さんのお父さんと、親しい友人達でたてたと言った。

「ま、時間があったら、手ぇ、合わせに行ってやれよ。」

そう言って、お墓のあるお寺の場所を教えてくれた。

俺とシオンは、四ノ宮さんに頭をさげて、事務所を後にした。

「解体されてなくて、良かったね。」

シオンはあくまでも呑気だ。

「次はビアの屋さんに電話だね。」

にっこりと微笑まれて、がっくりと力が抜ける。

「あのさ。なんであんた、俺に付いてきてんの?」

ふふっと軽く笑った。

「さて、どうしてでしょう?」

「って、あんた、俺が聞いて…。」

そこまで言いかけた。

「『あんた』じゃなくて、『シオン』だよ。名前もう忘れちゃったの?」

少し眉を寄せながら、不服そうに言う。

あぁ、テンポについていけない…。

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