僕はショパンに恋をした
結局、『cafe ♪』の近くまで戻ってきた。

店から歩いて15分程の距離に、竹に囲まれるように佇む寺があった。

「わぁ、竹取物語みたいだね〜。」

日本が初めてと言っていたが、日本の事は結構知っているみたいだ。

「へぇ、知ってるんだ、かぐや姫。」

「うん。おかあさんから聞いたことあるんだ。」

日本好きな人だったのだろうか。

そう思いながら、敷石を踏みながら入って行く。

社務所の前まで来ると、住職らしき人が箒で掃除していた。

「すみません。お墓にお参りしたいのですが。」

そう言うと、どうぞと手招きした。

社務所の窓口に呼ばれて、訪問帳に名前を書くように言われた。

久し振りの筆に、少し戸惑いながら名前を書く。

『八月 桐儀』

ひょいと覗きこんでいたシオンに、筆を渡そうと、彼を見た。

ただでさえ大きな碧い目を、さらに大きくして、俺が書いた字を見ている。

…なんだ…?

筆がそんなに珍しいのか?

なかなか動かないので、声をかけた。

「…おい…?どうかしたか?」
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