僕はショパンに恋をした
シオンは、それでも字から目を離さずに言った。

「これ、『はちがつ とうぎ』って書いてある。」

ああ、それでか。

まあ、よく間違われるから、今更どうこう思わないけど。

「珍しいだろ?それで『ほおずみ ひさぎ』って読むんだ。」

シオンはようやく俺の顔を見る。

「…そうだったんだ。へぇ…。」

まじまじと見られて、少し躊躇する。

「何だよ。」


シオンはまた、フワリと笑った。

そして俺の手から筆をとりあげ、自分の名前を書いた。

今度は俺がその字に釘付けになる。

ふふっと笑ってシオンが言った。

「うまいでしょ?」

俺がそこに見たのは、とても流暢に書かれた漢字だった。


< 50 / 185 >

この作品をシェア

pagetop