僕はショパンに恋をした
シオンは、お墓の前にしゃがんで、手をあわせた。

その姿は、何だかとても小さな子供のように見えて、少し切なくなった。

俺は桶に水を入れにいった。

シオンの隣りに戻ると、柄杓で水をかけて、手をあわせる。

何を思えば良いかわからなくて、結局愚痴が頭をよぎる。

(俺、霧野さんの紅茶、飲みたくなったから来たんだぜ。)

あの日、霧野さんの言葉を聞いて、前に進むことができたんだ。

だからもう一度前に進むために、何が言って欲しかった。

子供のずるい甘えだって分かってる。

それでも、聴きたかったんだ、霧野さんの優しいショパン。

また涙がでそうになって慌てる。

二回も、年下の奴に泣き顔を見られるなんて、冗談じゃない。

「泣いても、良いのに。」

お墓を見たままで、シオンが言った。

「誰かのために泣くのは、大切なことでしょう?」

あぁ、これが誰かの為に泣くってことなのか。

俺は、今まで自分の事でしか泣いた事はなかった。

悔しいとか、失敗したとか、そんな事でしか涙は出なかった。

こんな単純で、切ない涙が、俺にもあったんだなぁと、変に感動してしまった。
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