僕はショパンに恋をした
俺は、携帯から連絡を入れた。

随分来ていないが、子供の頃は、よく親のリサイタルまわりで京都にも来た。

贔屓にしていた旅館が、八坂神社の裏にある。

女将は、電話口で俺の名前を聞いて、大層喜んでくれた。

「部屋、用意してくれるってさ。」

俺は、傍らで会話を聞いていたシオンに言った。

「ひさぎは、何でもできちゃうんだね。すごいや。」

ふわっと笑って、シオンは言った。

「…親の威光に、あやかってるだけだ。別にすごくはない。」

また、鬱々としかけながら答えると、頭をぽかっと叩かれる。

「今の、素直にありがとうって言うところ!変に悪ぶらないの!」

こいつ、包み隠さず本音を言い過ぎだ!

ちょっと赤くなって、俺は横を向いた。

「…わりぃ。さんきゅ…。」

シオンは、うんうんと満足気に頷いて、歩き出した。

「おい、そっち、逆方向…。」

全くもって、調子が狂う。
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