僕はショパンに恋をした
シオンのあこがれの、部屋食。

「わ!きれいだなぁ…。」

先付八寸を見て、ほぅっと溜め息をついてシオンが呟く。

「何か、お腹空いてるから、葛藤しちゃう。しばらく眺めるか、すぐ食べるか。」

それを聞いて、器を差し出した女将は笑って言った。

「ほな、板さんにそう言うときますね。まだまだお料理でますよって、たくさん召し上がってくださいね。」

シオンは嬉しそうにまた笑った。

俺も久々の日本食を、堪能することにした。

ここの料理は、お世辞抜きに美味い。

器のセンスも、俺は好きだ。

女将は、60歳は過ぎているはずだが、昔から旅館の中の細々としたことまで、自分ですると言う。

部屋の小物や飾り、床の間の花から全部、女将のセンスだと言う。

俺は、その中でも、入口に生けられている花が好きだった。

その時々の、季節の花を生ける。

その花の名前を、よく女将に聞いたものだ。

床の間の花を見て、ぼそっと言う。

「利休草と夕霧草か…。」
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