僕はショパンに恋をした
「あのピアノ、売ってしまったの。」

彼女には7歳になる子供がいるといった。

その女の子は、二年前からピアノを習い始め、今まで電子ピアノを使っていた。

最近普通のピアノが欲しいと言い出したので、インターネットで中古のピアノを探し、破格の値段のピアノを見つけたという。

それが大橋ピアノだった。

「届いたら、傷はあちこちあるし、娘は『OHHASHIなんて名前知らない、ヤマハとかカワイとか、有名なピアノが良い』って。」

それで、他の中古ピアノ屋に売ったと言うのだ。

音ではなく、知名度で選ぶ。

そうじゃないのに…。

そうじゃないのに…!!

ぐっと拳を握る。

「その中古ピアノ屋は…?」

俺は、悲しいような、切ないような、たまらない気持ちになった。

このまま、出逢えないのか…?

二度と…?

霧野さんみたいに…?

体が震えた。

どこまで追えば、届くんだ。

まるで俺が何の為に弾いてるか、探しても探しても見つからないのと、同じように思えた。
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