僕はショパンに恋をした
「私、まるっきり音楽は素人なんです。」

彼女は恥ずかしそうに言った。

「あなたが弾いた曲も、よく知らないどころか、一度も聴いたことなくて…」

でも、と付け加えた。

「あなたのピアノ聞いたら、何だか海が見えた気がしたの。」

「海…ですか…?」

「そう。娘も同じこと言ったの。海の曲みたいだって。」

この時弾いた曲は、別に海を連想させるものはない。

なのに海…?

よくわからない、という顔をすると、彼女は笑って付け加えた。

「私と娘にとって、海は思い出なんですよ。」

思い出…?

「私の祖母の田舎、海の近くなんです。娘が生まれてから毎年行ってたんです。」

その景色を思い出したのか。

「イタリアに行く前に、亡くなったんです。娘はひい婆ちゃんが大好きだったから、泣いて泣いて…。」

思わず、シオンが、おばあさんが亡くなったことを思い出してないか心配になって、振り向く。

シオンはふと俺と目が合い、目だけで笑った。
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