僕はショパンに恋をした
「だからあなたのピアノ、祖母との思い出の海を連想させたんでしょうね。」

「……?」

「懐かしくて、切なくて。そんな気持ちだったと思うわ。」

驚いた。

俺の、心がないと思っていたピアノは、誰かの心に何かを与えていたのか?

全くもって驚きだ。

きっと、この時の俺は、鳩が豆鉄砲くらったような、とぼけた顔だっただろう。

「それから、うちの娘、ピアノを習うようになったの。『あのお兄ちゃんみたいに、海の曲弾きたい!』って。

こういう、裏のない、計算もたくらみもない賛辞というのは、こっぱずかしいものだ。

ふとシオンに言われたことを思い出し、素直に言った。

「あの…。ありがとうございます…。」
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