僕はショパンに恋をした
「…ひさぎぃ…。」

「何だ?」

俺は笑いをこらえながら、返事をする。

「これ、水のなかに沈んでる…。しかも…大きくて黒いよ?」

そして小さな声で、腐ってるんじゃないの?と付け足した。

だから俺は、自分の器の中も、同じだと見せた。

「本蕨ってのは、こういう黒っぽい色なんだよ。とろっとして美味いぜ。」

思った通りの反応に、堪えきれずに笑ってしまう。

そして、箸でひとつつまんで、小さな黒蜜の入った器にひたす。

さらにきな粉をつけて、口に入れる。

何年ぶりかの甘い味に、不思議とほっとした。

それを見たシオンは、同じようにして食べた。

「…!とろけた!」

目を丸くして、驚く。

早速、二つ目も食べている。

「美味いだろ?」

「うん!僕の知ってたワラビモチが、どんなのかわからないけど、これ、美味しい!」

あっという間に五つ食べ切ってしまう。

「まぁ、シオンの思ってたワラビモチも、あれはあれで結構美味いけどね。」

俺はそういいながら、自分の器の蕨餅をひとつひょいと、シオンの器に入れる。

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