僕はショパンに恋をした
二人で桂川の河原に座って、ぼ〜っとした。

ただ、ぼ〜っと。

こんなのは久しぶりだ。

そしてあることに気付いた。

「なぁ、さっき、聞いてたよな?」

「ん〜?何を?」

「その、イタリアで、リサイタルとかやってたとか、ピアニストだとか…。」

そう言うと、うんと頷く。

「うんって…。そんだけ?」

それ以上、何があるのだ?という顔で、俺を見る。

「その、つっこんで聞いたり、しねぇの?」

シオンはまた笑った。

「聞いて欲しそうな顔、してないから。」

あっさりと答える。

実際、あまり聞かれたくない。

人に自分の経歴を話して、良い思いをしたためしがない。

妙によそよそしくなるか、妙にバックグラウンドを当てにしたりとか、うんざりな事が多かった。

「それに、聞いたって聞かなくたって、ひさぎは、ひさぎでしょ?簡単な事だよ。」

またまたさらりと言ってのける。

俺にはない感覚だ。

でも嫌な感じは、やっぱりしない。

むしろほっとしている。

シオンが言った、正反対の正確でも親しくなれるという意味が、何となく分る気がした。
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