僕はショパンに恋をした
「今、霧野さんのこと、考えてた?」

「…え?」

シオンに言われて、驚く。

「あぁ、うん。何で分った?」

シオンは俺を見て、笑った。

「だって、ひさぎ、霧野さんの事を考えてる時、懐かしそうな切ないような嬉しそうな顔、してるから。」

俺は苦笑いをして、前にシオンに言われたことを思い出した。

「混ぜすぎて、失敗した絵の具の色みたいな?」

すると、シオンは目を丸くして、それから弾けたように笑った。

「違う違う!あの時とは全然違う顔だよ。」

そう…か?

俺にはどう違うか、よく分らない。

つい眉間にしわがよる。

そのしわを伸ばすように、シオンは指で押して来た。

「そうだな、あの時は迷い顔、今は郷愁顔。かな?」

「どう違うんだ?」

「さあ、どう違うんでしょうか。」

シオンは正解を言わず、ただ笑っている。

シオンは、よく俺の表情を見ている。

俺は彼の何を知っているのだろう。

俺は彼の何が知りたいのだろう。
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