鬼~oni~
「俺がわかる?」

 見知らぬ男が、小さな女の子と私を抱きしめる。

 ああ、

 ああ、

 ああ、

 そうだった……

 次の瞬間、私は弾けるように二人から飛び退き、自分の顔を撫でた。

 自分の頭を撫でた。

 角がない!角が無くなっている。

 耳も、とがっていない。

 「私は……」

 「俺達がわかるんだね?」

 「私は鬼じゃ……」

 「鬼なんかじゃないよ、安心して……君は大切な人だ……」

 懐かしい男の声が、私の体の隅々に染み渡る。

 この小さな女の子の手は、もっと小さかったのに……
 
 そうして、私は気の済むまで人間の涙を流し、この病室に二度と戻ってくることはなかった。
 

 
                   おしまい
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