先輩とあたし【完】

少し時間が止まったように先輩の表情が一瞬だけ無表情になったようなそんな気がするけどすぐに笑顔になってちゃかしてくる稲森先輩。
「へー伊織ちゃんが彼氏ねー」部室の椅子に腰をおろす先輩。

「先輩、はよ部活行ってください。試合、近いんですよ?」
「誰なん?伊織ちゃんの彼氏…」椅子の下にあったサッカーボールを自由自在に扱う先輩。
「その話はもーいいですから…」私はため息をつきながら先輩の方をみる。

「そんなん気になって集中でけへんやんかー俺と伊織ちゃんの仲やろ」
「どんな仲ですか」私はクスっと笑う。
「先輩と後輩…?」
「そのままじゃないですか」ふたたびクスっと笑う。

「俊哉先輩です。もーいいから早く部活行ってください。」
私は先輩の腕を引っ張って部室から追い出した。

「伊織ちゃん!」追い出したはずの先輩の声がまた聞こえる。
「まだ居たんですか?」私は呆れた顔でもう一度追い出そうとする。
「おめでとう」ふざけてもいなくて、からかってもいなくて真剣に先輩にそう言われた。先輩はそれだけ言ってみんなの中に入っていった。

「何よ、急に…」私は手に力をぐっと入れた。

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