5つの欠片
結羅の背中から腕を外すと、結羅は俺の頬から手を外した。
体から離れていく結羅の体温。





「これ、つけてくれてるの?…嬉しい。」




結羅がそう言って俺の左手を掴んだ。
左手の人差し指にはめてあるリング。





今年の夏に事務所の力で開いてくれた初めての個人リサイタルの時に結羅がくれたものだった。





あの時は、リサイタルの準備とともに、もちろん他の仕事もしなくちゃいけなくて
本当に倒れるんじゃないかと思うぐらい時間がなかった。





暇があれば演奏の完成度を高めることに必死で、結羅と遊べる時間は睡眠時間を削っても足りなかった。





だけど、リサイタルのことで頭がいっぱいの俺を、結羅はいつでも文句一つ言わずに見守ってくれた。





料理を作りに家に来てくれたり、洗濯とか掃除まで、全くかまってやれないのに結羅はほとんど毎日来てくれて。






俺のピアノを聴きながら家事をして、俺が結羅の方を向くといっつも優しい笑顔で笑ってくれた。







そんな結羅がある日俺の家に来た時にこのリングをくれたんだ。








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