5つの欠片
「ねぇ、渡したいモノがあるの。受け取ってくれる?」




結羅は少し照れくさそうにそう言ってピアノに近づいてきた。
確かあの日は休日で、結羅はジーパンにTシャツというラフな格好だった。
いつもと感じの違う結羅に少し胸が跳ねる。





「ん、なに?」



「これ……」




そう言って結羅は手のひらを開いて、ごついシルバーのリングを見せた。




「…指輪?」





俺は横長のピアノの椅子に結羅を引き寄せて座らせた。
結羅は手のひらの中から指輪を取ると、俺の人差し指にはめる。





ごついけどどこか上品のあるデザインは、いかにも結羅が好きそうだった。
はめた左手を結羅に見せると、嬉しそうに笑って俺の手を両手で掴む。





「あたしね、真くんのこの手が好きなの。
 優しく鍵盤の上を踊って、跳ねるこの指が好き。」





結羅はまじまじと俺の手を見つめながらそう言って、両手でぷにぷにと揉んだ。
満足そうに俺の手を握る結羅…





正直、めちゃめちゃ嬉しかった。
胸がきゅーと捕まれたみたいに痛くなった...
だけど、さすがに指輪をつけたままピアノを弾くわけにはいかなくて...







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