5つの欠片
峻くんはあたしをぎゅーと強く抱きしめて




「時間、守れなくてごめんね…」




って言って、軽くおでこにキスしてからソファを降りた。
キッチンの方に向かって歩いていく峻くんの足音が聞こえる…





峻くんはきっとそんな理由で泣いてたワケじゃないことに気づいてる…
その優しい気遣いにまた鼻の奥がツンとなった…
だけど、それはどうすることもできない高い壁…





『…栞。ママの言いたいこと、分かるでしょ?
 どうしてあの子にこだわるの?
 あの子はあなたにふさわしくないわ……』






ママ…
どうして、そんなこというの…?




大好きなママの口からそんな悲しい言葉聞きたくなかった……






「栞、飯食った?俺、腹減ったわ。」





キッチンから急に明るくなった峻くんの声が聞こえる。
あたしは近くにあった丸いクッションをぎゅっと握った。





ソファの上から、キッチンにいる峻くんの背中が見える。
冷蔵庫を開けて、適当に野菜や調味料を取り出してる。
すぐに包丁の音が聞こえてきて、手際の良い手つきが後姿でも分かった。





峻くん…
苦しませてごめんなさい……




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