5つの欠片
9時になって、予定通りマネージャーが迎えにきてくれた。
俺は愛用のバイオリンケースを横目でちらっと見て、鞄だけ持って部屋をでた。




今日は雑誌の取材ばっかり…
バイオリンを使う時なんてない。




事情をよくわかっていない俺はいつもマネージャーのいいなり。
連れて行かされる所にとぼとぼついていく。




行き着いた先にはもう編集者の人がたくさん居た。
音楽雑誌だけじゃなくて、女性誌や男性誌の人もいる…




ファッションとかまったく分かんないんだけど…
いっつも俺なんかでいいのって思う…




有無を言わさないような感じで午前の取材が始まった。
囲みでインタビューを取って、その後雑誌ごとの撮影…




いつものようにふわふわした感じで返事をして、言われるがままに撮影を受けた。
適当にやってるつもりはないけど…
急にそんないろいろ聞かれてもバカだからすぐ浮かばないよ…





午前の取材が終わって、重い体を引きずりながら楽屋に戻るとテーブルの上にある雑誌が目に入った。




表紙には、爽やかに笑う真ちゃんの表情。




「…今年注目のピアニスト、神木真一の素顔…か…」





静かな部屋に、無意識に言葉が零れる。
また静かになった部屋に、今度はノックの音が聞こえてきた。





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