5つの欠片
シンクの上の小窓から陽が差し込んで、2人を包んだ。
詩の背中に置いてる左手にあたる栗色の髪の毛が一層明るくなる。




指を咥えられたまま、詩の頭の上に顎を乗せた。
目の前には、詩が作ってくれたフレンチトースト、切れかけのレタス。
詩の頬みたいな赤いりんご、昨日使った赤と青のコーヒーカップ。
そして…、俺のチェロの写真…





詩は俺が留学してる時に寂しさを埋めるためだと言って、部屋の至る所に写真を置いてる。
俺が写ってる訳じゃない。
写ってるのは全て俺に関するモノ。





台所にはチェロ、玄関は靴、リビングは携帯、洗面所はリップ、風呂場はシェーバー、寝室には、詩がくれたネックレスの写真…





出来るだけ何気なくいつも使ってるモノが良いっていうから、撮ってみたらこんな写真が集まってた。




初めはなんでこんな写真が欲しいんだか、さっぱり分かんなくて。
でも、どうしても欲しいっていうから、日本を発つ前に詩に渡した。
そしたら、やったらと喜んで目をキラキラさせて写真を見つめる詩がいて。
ありがとうって俺の手を握ってぶんぶん振った。





写真の理由が分かったのは、次に帰国した時だった。
先輩の家に泊まったなんてこと言うから、心配で仕方なくなって次の個展のタイミングで帰ってきた時。





久々に来た詩の部屋には、俺のあげた写真が各部屋に飾ってあった。
最初に見つけたのは、玄関じゃなくてリビングで。
木製のリビングテーブルの上に、ちょこんとのってるフォトフレームを見てびっくりした。






今も置かれてるフォトフレームはこの場所からも良く見える。
埃一つついてない綺麗な状態で。




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