5つの欠片
「なんでこんなとこ置いてんの?」



見つけた時、単刀直入に尋ねた俺の言葉に詩は嬉しそうに答えた。




「あ、それね。和くんがいるみたいだから。」



「…は?」



「いっつも携帯で電話するでしょ?
 その時にね、この写真見ながらするの。
 なんでか分かんないけど、隣でお喋りしてるような感覚になるんだぁ。
 何もないより、和くんが近くにいるように感じるの…」





詩の言葉を聞きながらそれぞれの部屋を回ると、確かに絶対どこかに1つ写真があった。





「和くんと居た時の気持ちを少しだけ長く覚えてられる気がするの。
 ご飯作る時にチェロ弾いてる姿が浮かんだり…、洗濯しながらまだ愛用のリップ変わってないのかなぁ…とか
 いろいろ考えたりして……ちょっと嬉しくなる…」





この時もやっぱり詩はリンゴみたいに頬を真っ赤にしてて。
花柄のワンピースがリビングから入る風で揺れてた…




ずっと傍にいてやれないのがもどかしくて、仕方なかった。





詩が強がってるのは痛いほどわかってた。
帰ってきたら甘えてくるくせに、さみしいって言わないし。
留学先に戻る時は絶対に笑顔で見送ってくれた…
その後、泣いてたくせに…




多分、他にも我慢させてたことはいっぱいあって…
どんだけ1人で泣いたのかも、俺には計り知れない。





だけど…
絶対このちっさな手を放したくないって思ってた…





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