5つの欠片
横のコンロで作ったチャーハンを皿に盛って、テーブルに運ぶ。
麦茶すらない冷蔵庫は開けてもすっからかん。
必要最低限のモノしか買わない詩の冷蔵庫はいつ見てもこんな感じ。
俺はいつも通り水を入れて、テーブルに移動した。





チャーハンを口に運びながら、目の前にある絵を見つめる。
小さな子どもが大人っぽく気取ってチェロを弾いてる絵。





彩り豊かに描かれた絵の中の音は虹色で、幸せそうな雰囲気が見てとれる。
詩がこんな絵を描くなんて珍しくて…
抽象画みたいなのが多いから、さっきアトリエから見つけた時はびっくりした。





チェロの部分が一番最初に見えて、一瞬俺かと思った。
きっとあの写真を見て書いたんだろう。
俺の使ってるチェロの形にそっくりだった。





だけど、見てみるとタキシードに身を包んだ小さな男の子。
草原の上で優雅に音を奏でる様子は、ほんとに気持ち良さそうに見える。






どうゆう気持ちでこの絵描いたんだろ…
幸せそうだけど、どこか寂しい感じもして…
少しぼんやりしてる…





スプーンで掬うチャーハンが胃袋に消えて皿を片付けてから、絵を丁寧にアトリエに戻した。
このアトリエだけはいつも掃除をしない。
ここの空間だけは、なんとなく土足で踏み込んじゃいけないような気がして…
出来るだけそのままの状態を保ちながら、少しだけ作品を見せてもらう。





個展に出すための作品が数個。
一番多いのは、専門の抽象画。
後は、小さな彫刻とか、水墨画なんてのもちょこちょこあったりする。





絵とか芸術とか正直よく分かんないから専門的なことは何にも分かんないけど。
なんか詩の作品を見てると、穏やかになれる…
心に余裕ができるというか自然と癒される…





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