5つの欠片
「そのふにゃっとした笑顔がズルいんだよなー」



櫂は恨めしそうにそう言うと、俺の頬を引っ張った。
片方だけ皮膚が伸びて、歯が空気にあたる。




「なんだよ、櫂!...っ放せ!」



櫂は楽しそうに「ふふっ」て笑うと、目一杯引っ張ってから頬を解放してくれた。
それから左の頬を手でさすってる俺を見て意地悪な目に変わった。




「この借りはちゃーんと返してくんないとね」



ニヤっと笑ってそんなことを言う櫂。
なんかちょっと怖いんだけど...



なんだよ、借りって...




「ま、これはここぞって時のために貰っとくわ♪」



終始上機嫌でそう言うと櫂はホールに戻って行った。




ここぞって...
まぁ、いっか。
櫂のおかげで亜衣ちゃんも喜んでたと思うし...うん。




俺は深く考えずに洗いたてのマドラーを持って、カウンターに入った。
店長と目があって思わず微笑む。






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