5つの欠片
「あ、この子麻美って言うの!そういえば、言ってなかったよね?」



お会計を済ませた帰り際、亜衣ちゃんが急に思い出したように言った。
麻美ちゃんという子は亜衣ちゃんに促されて半歩前に出てきた。




「佐伯麻美って言います。よかったら…」



落ち着いた優しい声でそう言うと、遠慮がちに名刺を渡してくる。



「あ、ありがとう…麻美ちゃんね。」



そう言いながら貰ったばかりの名刺を見ると、フィルハーモニー交響楽団…
ってことは、もしかして…



「音大出てるの?」




接客なんて関係なく完全に素の声が勝手にでてた。
麻美ちゃんは一瞬不思議そうにこっちをみたけど、すぐににこっと笑って頷いた。




「うん。専攻は管楽器専修、楽団でクラリネットを演奏させてもらってるの。」




まるで俺が聞きたいことを透視できてるんじゃないかってぐらい、麻美ちゃんは的を得た答えを返してくれた。





「そうなんだ…、実は友達がここの楽団に所属してるからさ、ちょっとだけ気になって。」




真ちゃんも雅也もここの楽団に所属してる。
今はちょっと違う面で忙しそうだけど…




ウィーン留学が終われば、多分和も入るだろう。
峻くんはどうなんだろう…分からないけど、無くもない気がする…





< 94 / 110 >

この作品をシェア

pagetop