Only One



「出来ることなら、仕事がしたい。あのお店で。だって、あのお店は…私を1人前のエステティシャンに育ててくれたところだから。」

『芹那…、』

「でもね、あそこで働くのは…怖いよ…。すごく、怖い。すぐ近くにあの人がいるって感じただけで、震えが治まらないの。そんなんじゃ、いくらやる気があったとしても、仕事に集中できなくて迷惑かけるだけだと思うの…お店に。だったら…辞めようって、思ってる。」


普段は凄く優しくて、だけど時にはすごく厳しくて面倒見のいい店長で、すごく、あそこで働くのが幸せだった。

良い上司を持ったな、ってすごく店長のことを尊敬してたし、誇りに思ってた。

なのに…あの職場を、怖いって思うようになるなんて。

すごく、店長にも、スタッフさんにもお世話になったのに…。


『…芹那、』

「智愛ちゃん…?」


胸が苦しく感じるのは私だけのはずなのに、智愛ちゃんまで辛そうな顔してる。


『辛い決断だよね、こんなことさせて…ごめんね。』

「智愛ちゃん…」


智愛ちゃんは優しい。

智愛ちゃんにとってこれは、ただの他人事でしかないはずなのに、

それなのに智愛ちゃんは親身になって私のことを考えてくれてる。

それは郁人さんも一緒で――…


この2人に出会うことが出来て、幸せだと思った。



< 112 / 212 >

この作品をシェア

pagetop